ドクターコラム VOL.36
ドクターコラム
サスケや
昨年の春である。起きがけ右の股関節に激痛が走った。
整形外科医から、レントゲンではまず問題ないと言われ数日で治まったのでいつの間にか忘れていた。
梅雨明けになり又同じ痛みが襲った。変形性股関節症の進行期と思いもかけない診断であった。
いままで股関節の病気を知らないので原発性と言うことであった。
1時間かけての満員電車での通勤は出来るだけ控えるように言われ、医院の近くでの仮住まいが
多くなった。
おのずと夜のサスケのインスリン注射は家内の役目になっていった。
糖尿病を患ってから体重の回復しないサスケはまた、以前のように喜んで外出することが少なくなった。 しかし健啖家ぶりは衰えることがなかった。
眠ることの多くなったサスケだが、家内が夕食の準備を始めだすといつのまにやらおきだし台所に突進し、ものをねだり家内の邪魔をした。
二人の食卓の家内の左が定位置で、すき焼きなどの生肉を好んだ。
やがて家内を悩ませることが起きた。
サスケが便秘と下痢を繰り返すようになったのだ。
便秘になれば薬をもらいに走る。また、帰宅をすれば居間といわず台所といわず汚しており、小一時間の掃除に振り回される。
今年もまた医院総出の祇園祭が終わった。今年の海の日は振り替え祭日で月曜日であった。
その日は自宅で迎えた。
サスケは朝から泣くことが多かった。最近通院回数がとみに増えていたが、家内はまた午前中に連れて行ったようであった。
主治医から電話がかかってきたのは、サスケが何時もと違うけいれんをおこした時だった。
いったん電話を切って見守るしかなかった。主治医に看取られるまでに時間はかからなかった。
9月のある日の二人で囲む夕食のことである。献立の1つの‘牛肉のたたき’が二人で食べきれなかった。
私がサスケに、と言いかけるやいなや、どちらともなく‘しゃーない’‘仕方がない’と顔を見合わせた。