サスケが糖尿病になった
ドクターコラム
サスケは我が家の愛猫の名前である。
息子が中学2年生の時に学校からの帰り道に拾ってきた猫である。十三年前のことである。
生まれてすぐに捨てられたようであった。うまく力が入らないのかおしりに‘うんち’が
つまったままでやせ細っていた。
翌日近くの動物病院に連れて行くことになった。息子と家内とともに診察室に入った。
私は、‘肛門括約筋が弱っているのでしょうか?’と思わず業界用語を使ってしまい、
人の医者であることを白状することになった。
この獣医師がサスケのかけがえのない主治医となった。
それからサスケは人の心配をよそに大食家の道を歩み、肥満の坂を駆け上がることになる。
歩くと地面に腹がつきそうな愛嬌のある風体で近所の人気者になっていくが、‘デブ’だけが皆にサスケ、サスケと親しまれる理由ではなかった。
人見知りをすることがなく、人が集まると必ずどこからとなくサスケが現れその周りに鎮座した。
サスケがうちにきた年は、大学でのキャリアアップをひたすら目指し家を顧みかった医学部卒業からそれまでの年月に終止符をうった年であった。
大きく曲がり角を切ってから今に続く行程の時間を刻むのがサスケの年齢、といつの間にか考えるようになっていた。
サスケを拾ってきた息子が獣医学部に入学したのはそれから五年後である。獣医師を志望したわけは何も言わなかった。
大きな腹を自慢気にしていたサスケに異変が現れたのは一昨年の祇園祭の頃であった。
トイレの砂がおしっこで尋常ならずぬれるのに最初に気づいたのは家内であった。水を多量にほしがる、あのサスケの体重がみるみる減っていく。
私は当然のごとく診断した。糖尿病であると。
~続く